「ケイゾク 眠り姫-Sleeping Beauty-」


-真山徹編-

深い深い眠り。
目を覚まさない女。
どんな夢を見ているのだろうか。
あの日、あの時、あの瞬間から
今までその眠りの中で。
あんな光景の後だ。
良い夢なんて見れていないだろう。
きっと悪い夢。
ただ、こんなにも長く眠っているのだから
少しは良い夢であって欲しいと
柄にも無く考えていた。

「見舞いにいかんの?」
聞き慣れた関西弁が耳に響く。
「あんたな、少しは心配してんの?
ほんま、寂しい男やわぁ〜」

柴田純。
あいつが眠り続けて随分とすぎていた。
季節はすぎ、そして繰り返し
少しずつ寒さが近づいていた。

あの日、血だらけの柴田をこの腕に抱きかかえていた。
その感覚がまだ消える事無く・・・確かに残っている。
出血の感覚は初めてじゃない。
同僚がそんな目にあったのを見た事も、
同じように抱きかかえた事もある。

なのに、何故だろうか。
柴田純、あいつの感覚だけが身体に染み付いている。

未だ目覚めない女。



最後に、俺をからかったかりを返せよ。




ある日。
俺の身体は警察病院にあった。
そう、柴田が入院している病院だ。

上手い言い訳で弐係を抜け出し、
誰とも会わないタイミングを狙った。
冷やかされるのは・・・まぁ面倒だから



「・・・・・」
初めて見た姿。
一人の女がすやすやと眠っている。
呼べば目覚めそうな、そんな顔。
また、頭でも叩いてやるか。
なんて冗談も浮かぶ。
でも、目覚めない女。

この女が弐係に来てから何かと面倒な事ばかりだった。
それまで、自分の目的の為だけに生きてきたような
そんな自分が変わったように思えた。
まぁこいつにも、誰にも言わない話しだ。
そして、こいつは俺には出来ない事をすらすらとこなす。
そして、俺はこいつの出来ない事をいやいやこなす。
そんな関係。

正直張り合いが無い。
あの日以来。

ああだ、こうだと柴田の顔を眺めながら考える。

なぁ?何故目を覚まさないんだ?
からかってんのか?俺を。





気がつくと、俺はあの日あの時と同じ事をしていた。




「真山さん・・・私・・・死ぬ前にキスというものを・・・」

あの日の言葉を思い出す。
“死ぬ前”だなんて生意気なんだよ。
大人をからかうな。


そのからかわれた俺は、同じ事をしている。
キスをしている。

目が・・・覚めるように思えた・・・。

馬鹿だな・・・俺は・・・・。

あの“死の味”とは違う。
温かな“生の味”。
起きろ。
目を覚ませ。
生きているんだ。
だから、目を覚ませ。



お前が居ないと、無性に虚しいんだよ。




柴田が目を覚ましたのは数日後の事だった。
しかし、弐係に来てからの記憶が失われていた。

それで良いのかもしれない。
あんな悪夢を思い出す必要は無い。
ただ、虚しさが消えない。
目が覚めた喜びよりも、虚しさが大きくある。




きっと、あの頃の記憶が俺にとって大切なものだからだろう。



“お前には生きていて欲しいんだよ”

そんな事、初めて言った気がする。






その後、記憶が戻った日。
俺はかなりの負傷をしたが、そんな事よりもただ喜びが勝った。
痛みよりも、消え行く意識の中で嬉しかった。
ただ、嬉しかった。


こいつが、やっと帰ってきた。
そんな喜びの中俺は意識を手放した。


家族を失って以来、こんな言葉思った事が無い。


おかえり、柴田。


おかえり。


-end-





久しぶりにケイゾクを全部見たら書きたくなった。
ドラマも現実もラブラブでいて欲しい二人(笑)