「ケイゾク 眠り姫-Sleeping Beauty-」


-柴田純編-

真っ白な世界。
ぽつんの立つ私。
淡い赤色のドレスを着ている。
光るカラフルな蝶が舞う。
ふしぎな世界。

ここはどこだろう・・・?

“死”の感覚を思い出す。
あの、血の感覚。
自分が、刑事として無知な事がよくわかった。
無知ゆえの・・・無知ゆえの失敗。
やり直しのきかない最悪の失敗。

ここは天国なのかな?

「ねぇ?」

「え?」

振り向くと幼い少女が立っている。
見覚えのある顔。

「あなたはだあれ?」

「私は、柴田です。柴田純です。」

「私もおなじだよ」

「?」

それは忘れていた幼い頃の自分の姿だった。

「あなたは私」

「・・・」

「私はあなただよ」

「・・・うん」

なんて答えれば良いのかな?
絵本の世界のようなふしぎな世界。
私の感覚では理解が出来ない世界。

「ここは天国なのかな?」

「どう思う?」

「うーん・・・・・、天国かな」

「どうして?」

「いっぱい血を流したから」

あの瞬間を思い出す。
真山さんに抱えられながら、薄れて行く感覚。
血が流れて行く感覚を初めて知った。
死が近づく感覚。

殺される人の気持ち。
いつも、書類や情報として処理してきたもの。
それを、生々しく実感した瞬間だった。

「・・・」

ふと、真山さんの顔を思い出した。

「あっ、キス」

そういえば、私・・・真山さんとキスをしたんだ。
私が頼んだから。
なんで、あんなこと頼んだのだろう。
でも・・・。
真山さん・・・泣いてくれてたな・・・・。

「ねぇ、私」

少女に呼ばれる。

「何?」

「呼ばれてるよ?」

「えっ?誰に?」

「ほらっ」

もう一人の私はすっと私の後ろを指差した。

「えっ?」

真っ白な世界に蝶が舞い続ける。
ふしぎな世界の中で、人の姿は見えない。
でも、誰かの声が聞こえる。




「まやまさん?」




それに気づいた瞬間、光り輝くふしぎな蝶が消えた。
そして身体、全身を生暖かい感覚が走る。
あの時の“死”の感覚とは正反対の“生”の感覚。

「ねぇ!」

振り返り少女の方を見る。

「なあに?」

「私は生きてるの?」

「あなたはどう思うの?」

「いきて・・・る・・・?かな。」

「じゃあそうなんだよ」

「え?」

「あなたが思うなら私は生きてるの。」

「?」

何を言っているのだろう。
いつも、捜査書類ばかりの私には分らない世界。

真山さん・・・・。
自分の為に泣いてくれる男性の姿を初めて見た。
父親以外で。

真山さんは、
「生きていて欲しい」と言ってくれた。
でも、今の私は生きているのかな?
それがはっきりしない。
全身を駆け巡った“生”の感覚。
特に唇の辺りがなんだか・・・変な感じがするなぁ・・・。


“お前には生きていて欲しいんだよ”

真山さん・・・・・。

“あなたが思うなら私は生きているの”

今まで、沢山の資料を読んできた。
そして、事件解決なんて褒められる事をしてきた。
弐係に来てから、沢山の死体を見た。
生と死・・・それを私は“見てきた”。
見た・・・只それだけ。
生きると、死ぬ。
それをよく分っていなかった。
大切な事は理解していなかった。

「いくよ、私」

「じゃあ生きてるんだね、あなたは」

「うん、生きてる」


“お前には生きていて欲しいんだよ”

忘れられない言葉。
初めて私の為に泣いてくれた男性。



目が覚めてから私は記憶を失っていた。
思い出すまでに時間はかかったけど、
それは辛い記憶だったけど、
でも、思い出した瞬間・・・
真山さんが笑ってくれた。

私を守る為に、今度は真山さんが沢山傷ついて。
沢山血を流して。

でも、笑ってくれた。
喜んでくれた。


その瞬間、やっと私はあの夢から
真っ白な世界に光る蝶が舞うふしぎな世界の夢から、
やっと目覚めて“ここ”に、帰ってきた。
そう思えた。


気にするなと言った真山さん。


ごめんなさい。

そして、
ありがとうございます。


ただいま、真山さん。


ただいま。


-end-





ケイゾクを全部見た後、永遠の仔を見ました。
やっぱり二人はすごいと思いながら書きました。