「貴方は、それをなんと呼ぶ」

霧島健児という刑事は来栖の警察学校時代からの同期だった。
馬が合うというのか、眉間にしわを寄せる来栖の性格をうまくほぐすと言うか、
そんな良いコンビだった。警官になってからも仲は続いていた。
たまに会っては酒を飲む、数少ない友人と呼べる相手だった。
本音をしゃべれる相手だった。

事件はある日突然起きた。
隣の家の住人が、窓についた返り血を見て通報。
そして、事件は発覚した。

霧島健児とその妻と、双子のまだ1歳にみたない子供。
惨殺・・・されていた。
人間の仕業と思えない惨状だった。
俺も、現場検証に立ち合った。

大切な物を失った瞬間だった。
そして、手にしてはならない物を手にした瞬間だった。

憎しみ。

それは心を蝕む物。

ずっと、憎しみに苦しんでいた。

ある日、男は現れた。
伊達一義。
今までに会ったことのないタイプ。
刑事には居ない、にやにやと笑う男。

胸の奥の、憎しみに蝕まれた部分。
そこに、しみこんでくる感覚。

ウザイ。
ウザイと感じた。
隠している部分を暴かれるようで。

でも、その分とらわれていた。
それが、愛情へと変わるなんて笑える話だ。














俺たちは、ベットの上に座っていた。
その日、伊達ははじめて俺の家に来た。
俺が・・・・誘った。
なんというか、あのキスからもっと近づきたい気持ちに駆られた。
コンビニで買った弁当と、缶ビールを何本か空けて
俺たちは、ベットに腰をかけた。

「来栖明日は昼からだっけ?」
「あぁ、昼から容疑者の事情聴取。なかなか落ちなくてな」
「来栖なら誰でも簡単そうなのに」
くすっと笑って伊達が答えた。

「なんだよ・・・それ・・・・」
来栖も、警察官としては絶対見せない笑顔を見せてくれた。




「今日・・・さ・・・・」
「え・・・・?」
「変な電話が来たんだ」
「電話?」
「あぁ、なんでも“お前の追いかけていた犯人は我々が裁きを下した。
だから、憎しみに苦しむ必要はない”って」
「なに?・・・・それ・・・?」
伊達には分かっていた。
その電話の主は、ヴォイスチェンジャーを使った自分自身だったから。
「俺も、訳が分からなくて“なんだ?なんなんだ?”って聞いたんだ。
そしたら、“命を奪ったわけではない。人生をかけて償わせる。
だから、安心しろ”って。そこで、勝手に電話が切れた」
「・・・・・・」
「もしかして、例の神隠しって奴じゃないかって・・・・」
「来栖は?どう思った?」
「俺?俺は・・・・・・」
「余計なことをするなとか、神隠し自体捕まえたいとか思った?」
「俺は・・・・、わからない・・・・」
「ずっと憎んでいた。そいつが、訳の分からない奴だけど、そいつの力で
罪を償うことになる・・・らしい・・・。俺も、よく分からない・・・。
ただ・・・・、どこかで何かが楽になったというか、軽くなったというか・・・」
「来栖・・・・」
「混乱しているんだ。突然そんな電話が来て」
「俺でも、混乱するよ」
「今の気持ちで結論を出すなら、否定も肯定もしない。ただ・・・・・・」
「ただ・・・・・」
「やっぱり、わからない・・・・・」
「そっか・・・・・」



「早く、結論を出す必要はないんじゃないかな。それが、本当に神隠しだとしても」



来栖が何かを言いかける。
伊達がキスで口をふさぐ。
「最初のキス・・・・驚いた?」
「・・・・・もちろん」
「いつから・・・・好きだった・・・・」
「そんなの忘れた。気がついたらってとこだ」
「恥ずかしいな。なんだかそれ。」
「顔赤いぞ。お前は?」
「最初から、好きだったよ。ウザイって言われる度に傷ついたけど・・・」
「あれは・・・・・」
「これからも、つづける?」
「突然、変えると周りに感づかれるからな」
「そうだね・・・」
「傷つく?」
「あはは・・・・」

「伊達・・・・」
「なに?」
「いや、一義・・・・」
「・・・・・」
また、彼は顔を赤くする。
空気が一瞬で変わった。
「今日・・・・来てもらったのは・・・・・」
「うん・・・・・・」
「もっと、近づきたかったから・・・・」
「うん・・・・・・」
「キスは幸せだった。でも、キスが叶えばキスだけじゃ辛くなる」
「・・・・・・・・」
「お前も何か言えよ」
「俺は・・・・・・」
「一義・・・・・お前が欲しい・・・・」
「来栖っ!」
分かって来たつもりだった。でも、いざ言葉にされると恥ずかしい・・・・・・。
キスされる。
優しいキス。
求められていることを実感するキス。
「好きだ・・・好きなんだ・・・・」
ゆっくりと支えながら、押し倒される。
ゆっくりとベットに身体が沈む。
幸せだと実感する。願いが叶うと実感する。
幸福がすべてを包み込む。
来栖の“好き”という言葉が苦しそうに聞こえた。
ずっとため込んだ気持ちをはき出すような、やっと伝えられた安心感のような。
複雑な感情の入り交じった声。言葉。気持ち。
「愛してる」
「俺も・・・・・」
「俺で・・・・・いいのか・・・・?」
「もちろんっ!」
「その・・・・お前を・・・・抱きたい・・・・」
「・・・・抱いて欲しい・・・・」
「くちゅう・・・ちゅくっ・・・」
舌が絡み合う淫らなキス。夢中になる。
来栖に夢中になる。
「くるす・・・・」
「こういう時は、下で呼べよ。一義」
「あっ・・・あっうん・・・・淳之介・・・・」
「なに?一義?」
まさか、こんな風に呼び合える日が訪れるなんて・・・・。
伊達の心は幸せの絶頂だった。
「その・・・・」
来栖は言いづらそうにしている。
「なに?」
「俺・・・はじめてだから・・・その・・・・男同士・・・・」
「あっ・・・それは・・・・俺も・・・だよ・・・・男同士って・・・」
「優しくするから・・・・」
その言葉に、また心が熱くなるのを感じた。
多分、情熱という奴だろう。
「でもさ・・・不思議だね・・・・」
「何が?」
「35歳の男二人が初体験みたいで」
「お前ハッキリ言うなよ。男同士っていうのがはじめてなんだ」
「そうだね」
ははっと笑う伊達の服を脱がせはじめる。
「なんか、恥ずかしい・・・・」
「俺だって・・・・・」
「俺の事好き?」
「好きだよ」
「嬉しい」
「お前は?」
「大好き」

脱がせ終わった後、来栖は伊達を寝かせた状態で自分は覆い被さりながら服を脱いだ。
「綺麗だよ」
「ありがとう」
「でも、男に綺麗って変な感じだ」
「俺も・・・・あはは」
「でも、綺麗だよ」
「・・・・ありがとう」

「キスして・・・・」
「あぁ・・・・」

甘い時間が流れる。
愛の時間。

「お前キス好きだな」
「だって、もったいなくて」
「もったいない?」
「今まで、して欲しくてたまらなかったから・・・」
「・・・・・」
「だから、沢山して欲しくて・・・・・」


くちゅ・・・ちゅ・・・と首筋や胸に沢山キスをくれた。
どんどんと、下半身が変化していくのを感じる。
理性がどんどんと飛ぶ。こんなに、幸せでいいのだろうか。
そんなことさえ、思ってしまうほど幸せだった。

「カチュッカチャ」
来栖が、自分でズボンを脱ごうとしている。
伊達は、それをすっと手を出して止める。
「?」
「俺に・・・・やらせて・・・・」
「いいのか・・・?」
「うん・・・・」

カチャカチャ・・・とベルトをはずし、ズボンのチャックに手をかける。
ジーとチャックを下ろして、ズボンを脱がす。

「大丈夫か?」

ボクサーパンツを目の前にして、手が止まる伊達に問いかける。

「無理しなくていいぞ」

「無理してないよ。したい・・・だけ・・・・」

パンツをするりと脱がすと、彼のそれを口にくわえた。
「かずよし・・・・」
夢中になってしゃぶる。
夢の中で何度この事を見ただろう。
いや、すべてを何度夢に見たことだろう。
実際にふれたいと思っただろう。
男のものをしゃぶるなんて、初めてに決まってる。
でも、嫌じゃない。淳之介・・・・だから・・・・。
全部、淳之介だから嫌じゃない・・・・。

「おれぇ・・・・下手・・・じゃない・・・・?」
「まさか、今にもイきそう・・・」
「よかっ・・た・・・こほっ」
深くくわえたせいか少しむせった。
「もう、これはいいよ」
「なんで?」
「お前の中でイきたい・・・」
「はぁ!」
「何度も、可愛く顔を赤くするなよ。抱きしめたくなるだろ」
「ばぁか・・・恥ずかしいこと言わないでくれよ」
「そうか?」
「いつもの、来栖・・・・淳之介と違う・・・・」
「確かに、違うかもな」
「?」
「お前にしか見せれないよ。こんな俺」
「淳之介・・・・」



「いいか?そろそろ。もう、限界」
「うん・・・・・」
両足を掴んで、軽く体制を整える。
はじめての体制に伊達は苦しそうだ。
「くっは・・・・・」
「大丈夫か?」
「うん・・・・」
「お前のここ、すごい濡れてる。俺のくわえてて感じた?」
「ばぁか・・・」
「充分に濡れているから、すぐに入れても大丈夫そうだな」
「・・・・・」
身体に自然と力が入ってしまう。
「力抜けよ。辛いのはお前だぞ」
「うん・・・・」

ぐぐ・・・っと彼が入ってくる。
おっき・・・・い・・・・・。
深くなる。
彼が、自分の身体の中で広がる。

「あっあぁ・・・・」
「くそっ、きついな」
「あぁあぁぁ・・・」
「動くぞ・・・・」
「うん・・・・」
ズシズシ・・・と、ベットが揺れる。
「ヒァアッアァッアア・・・・・」
甘い声、濡れた声が部屋いっぱいに広がる。

「もっと、奥!奥・・・来て!お願い!」
「あぁ、そんなに欲しいか俺か」
「欲しいっ!欲しいよ!淳之介!」


俺たちは、そうやってはじめて一つになった。
幸福だった。俺も、来栖も。
確かに、胸にある物を愛と呼べることができるから。

JOKERの名の下に、伊達は裁きを下した。
それは、来栖の為だからと言うわけではなく、キチンと冷静に考えた上での判断だ。
でも、そこに愛がないと言えば嘘になる。来栖を、淳之介を苦しめる物から、
来栖を少しでも解放してやりたかった。

本人は、きっと複雑だろう。

でも、のうのうと真犯人が生きているよりはマシだろう。
そう、それが裁かなくちゃいけない現実。
俺の現実。

せめてもの、愛の形なのかもしれない。


愛してる・・・・淳之介。
もっと、俺を壊してくれ・・・・・・・。





もう、愛です。愛。
ラブラブな二人が書きたかったの!S